エクソソーム研究が創薬に与える影響
世界中の創薬研究者もエクソソームに注目しています。
なぜなら、がん研究が解き明かしているように疾患エクソソームの存在は、疾患の原因から病態の維持にまで様々なステップで作用しているからであり、これについては我々の最新の総説をご参照下さい(Kosaka et al., J Clin Invest, 2016;Fujita et al., Cancer Sci, 2016; Naito et al., Cell Mol LifeSci, 2016)。
つまり、疾患エクソソームの機能を止めることが、治療につながるという発想です。事実、がんの転移においては、エクソソームの分泌に関わるRab27bやnSM2を阻害することでエクソソーム分泌を制限すると、他臓器への転移能が顕著に阻害されることが我々をはじめ、複数のグループから報告されています。したがって、疾患エクソソームをなんらかの方策で阻止する手法が、新しい疾患治療戦略へと直結するわけです。
がん以外の疾患領域では、WHOの統計では2020年には世界の死亡原因の第3位に浮上する肺の慢性閉塞性肺疾患(COPD)も、喫煙刺激を受けた気道上皮細胞からのエクソソームがその病態の一因となりうることを私たちは示しました(Fujita et al.,J Extracell Vesicles, 2015)。さらに米国のグループは、肝臓疾患であるNASH(5~10年でその20%が肝硬変へと進展する)においても、炎症を惹起するようなエクソソームが脂肪の刺激によって肝細胞から分泌されることを報告しています(Hirsovaet al., Gastroenterol, 2016)。
つまり、こうしたエクソソームの分泌や受容細胞での取り込みを阻止することで慢性疾患の病態をコントロールすることが可能となるかもしれません。
エクソソームに託された<希望>とは
さて、こうしてがん領域で考えるとエクソソームは悪者ととらえられがちですが、体内で善行をするエクソソームも存在しています。
それは再生医療分野で話題の間葉系幹細胞などから分泌されるエクソソームです。
最近、こうした間葉系幹細胞の疾患・創傷治癒能力の多くは、エクソソームが担っていることが明らかにされつつあります(Katsuda & Ochiya, StemCell Res Ther, 2015)。さらに、シンガポール、米国など国際的には、間葉系幹細胞のエクソソームを疾患治療に応用するための臨床試験まで開始され、実際にヒトに投与されています。これはまさに現行の標準治療薬では効果の期待できない疾患患者や、難治疾患に関しては救いの神であり、今後エクソソームのレギュラトリーサイエンスを確立させることで、その治癒効果の科学的根拠の実証と臨床への応用が進むことを願っています。
また、エクソソームは我々の生体に備わった天然のデリバリーシステムであり、これに学ぶことで、従来にはない発想でドラッグデリバリーシステムを構築することも試みられています。例えば、米国NIHが主催するexRNA org.では、グレープフルーツのエクソソームをもとに、治療効果を有するマイクロRNAを搭載させて脳腫瘍に送達させることで、すでに臨床試験が開始されたとのニュースもあります。
フルーツをはじめ、植物やバクテリアなどにも存在するエクソソームの産業利用は今後ますます盛んになると考えられます。